『Yosemite』2013

まだ日も出ていない朝のホテル。冬のサンフランシスコは朝霧が出ることがあると聞いていたが、街は雲の中にいるかのように青白い。そこに小さなバンの光が近づいてきた。
サンフランシスコからヨセミテ国立公園までは、車で4時間半。バンの中は観光客が身を縮めて座っている。朝日に照らされて、風車と広大なアーモンド畑が見えてきた。アメリカはアーモンドの生産量が世界一だが、その大半をここで作っているという。
どこまでも続く長い長いアーモンド畑と草原。そこを抜けると、やがて岩の多い地域に入る。
ところどころに咲いた、満開の花蘇芳が岩肌に色を添えていた。

快晴。外の気温は30度近い。冬のヨセミテは寒いと聞いていたので、防寒してきたのだが。めずらしい現象らしく、ごくたまにこういう日があるそうだ。「春の訪れが近い証拠」でもあるとのことだが、夏場でも最高気温が20度程度のサンフランシスコを考えると、ほぼ夏である。なにを脱いでも足らず、山道を歩くにはきつすぎた。

高い木々の森を歩く。森は見慣れているが、その隙間から巨大な岩肌と滝が見えると、ここがヨセミテなのだと再認識させられる。
雪解け水が流れ、そこかしこに名もなき滝をつくっていた。「いいタイミングに来たね」とガイドの方が言う。よほど滝が好きなのか、滝が見えるたびに教えてくれる。「もしかしたら熊が観れるかもしれない」とのこと。ヨセミテコヨーテはどうですか?と聞くと「こんなに人がいると出てこないけど、運次第だね。観たければ泊まった方がいい」

しばらく行くと、木々の奥に一際大きな滝が見えてきた。岩というには大きすぎる、もはや山に近い高さから水が流れ落ち、2段に分かれて地上に降り注ぐ。「ヨセミテ滝」と呼ばれる瀑布だ。日本で暮らしてきた自分には、一瞬それが滝だと認識できないほどの巨大さだった。

麓に滝壺はなく、雪解け水は霧散し辺り一面を神々しく輝かせていた。観光客はそれを見上げながら、スマートフォンを掲げている。大自然に直面した時、たとえ観光で来ていたとしても人は口角を上げたりせず、畏怖の念と共に驚きただ目視するのだと、その光景を眺めながら思った。

そんな中、子供達は果敢に冒険を始めている様が面白い。親がなにか叫びかける。「気をつけてね!」とか「危ない!」とか、そんな意味の言葉なのだろうと思う。

体験しなければわからないことがたくさんある。来てみてよかったが、思い返すとあれが映像の中の出来事なのか、実体験なのか危うくなってしまう。それほどに大きな、日常と隔絶された景色だった。

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